■コラム Si-Folk物語■ by吉田文夫
@メロディオンとの出会い

赤澤氏達と同じように、70年代前半に英国周辺のトラッド(伝承音楽)に傾倒していた私は、 74年に初めてその地を訪れる事が出来た。その後短い間隔で2度ほど旅行の機会を得たが、 圧倒的にこの最初の旅行の印象が強烈だった。少なくてもその後の10年間は、他のことには殆ど関心を持たず、 アイルランド、スコットランド、イングランド、等々のトラッドの事ばかり考えていた、 と言えるほどのモチベーションを得られたように思う。

アイルランド音楽についても、この旅行の前にはあまりよく知らなかったのだが、島に初めて渡り、 ダブリンのユースHで知り合った、少し音楽に詳しそうな青年が薦めてくれた場所は、ディングル、 ミルタウン・マルベイ、そしてもう一カ所は忘れてしまったが、結局簡単には行けそうもなく断念したので、 ドニゴール辺りの何処かだったのかも知れない。

各土地での想い出や、プランクシティのライブを観た事なども、この旅行のハイライトになるが、 当通信の古い号に拙文を書いた事もあるので、そちらも参考にして頂く事にして、ここでは楽器の話をさせて頂きたい。

ディングルは、アイルランドの南西部ケリー地方の、大西洋に突き出た半島の西端近くにある街。そこで毎夜、 伝統音楽の演奏があるというオ・フラハティズ・パブの噂を聞き、行ってみることにした。人に尋ね尋ねの旅で、 やっと思い描いていたような場面に遭遇出来た、という思いも手伝ってか、このパブのファミリー・バンド (ボックス奏者の青年、その奥さん、妹という編成)の演奏に感激した。もうその場でこの楽器を弾く事を決心していたように思う。 更にこの地では、近くのヴェントリーという小さな村のパブでの演奏の情報も得て、徒歩で山越えして観に行ったが、 ここでの初老のフィドラーとドンクイーンという処から来たというボックス奏者の演奏がまた良かった。 日本にいた時にフェアポート・コンベンションの演奏で覚えていた曲Rakish PaddyだったかLark in the Morning だったのかは忘れてしまったが、調子に乗ってリクエストしたら、快く演奏してくれた事も嬉しかった。 実はこの辺りは2001年に再訪した(27年振り!)。今度はレンタカーを使っての旅だったが、 地図と当時の記憶とを重ねて、初めて上記の地名を確認した次第。そしてあのパブもちゃんと同じ場所にあった。 ボックス奏者の青年は、あご髭を蓄えた立派な中年(こちらもだが・・)になっていたが、当時と同じようにパブ を切り盛りしながら、毎夜演奏をしているとの事。もしかしたらもうお店がないのでは、とも思っていたので本当に嬉しかった。 「へ〜君は74年に、、本当?」、下手な英語をどのくらい理解してもらえたかよく判らないが、 「うん、そうそう僕はずっとここで弾いているんだよ」、と少し微笑みながら言った時の、柔和な目が印象的だった。 「貴方のお陰で僕もボタン・アコを弾く様になったんですよ!」ともっとちゃんと伝えたかったのだが・・。また行きたい。